八ヶ岳・小淵沢 ペンション風路の通信

風の通り路 2003.12.10 32号
静寂の原生林 押手川 編笠山頂、1歩届かず

 11月18日 
 秋の晴れわたった青空の日は家にいるのがもったいなくて、山や森の中へ飛び出したくなります。
 「わぁーっ! きょうはすごくいい天気だよ! 編笠は無理でも、押出川あたりまで行ってみようよ」
 18日の朝、あんまり乗り気ではない周平の尻を叩いて、山歩きの支度を始めました。久しぶりの高い山歩きです。ザックに入れるものをそろえるのに一苦労、気合の入ったお弁当はちょっと無理だったので、残り物のおかずをお弁当箱に詰め込み、近くのコンビニでおにぎりを二つずつとペットボトルの麦茶を買い、一路観音平へ向かいます。
 観音平へ向かう林道は、両側のカラマツの落葉が道路一杯に敷き詰められていて、黄色の絨毯の上を走っているようです。樹林の間からは青い空にくっきりと編笠山、権現岳が浮かび上がっています。富士見平まで上がると南側の眺望が開けて、甲斐駒ケ岳、鳳凰三山、その稜線の向こうにすっかり雪を被った北岳が望め、はるか雲の上には白く霞んだ富士山が浮かんでいました。
 富士見平から数分で観音平の駐車場です。うちからは甲斐駒ケ岳に隠れて見えない仙丈岳の頂も白く光って見えます。天気がいいせいか、八ヶ岳を目指す登山者の車が7、8台すでに停まっていて、今から歩き出そうとしているグループもいました。

白く輝く北岳
甲斐駒ケ岳とその右に雪をかぶった仙丈岳
 すぐに急登、早や息あがる・・・ 
 9時30分、出発。駐車場からその奥にあるグリーンロッジ方向へ入り、トイレを借りた後、編笠山中腹にある雲海へまっすぐに登る山道へ入りました。このあたりはシラカバ、カラマツ、ツツジなどの明るい樹林帯で、下は一面の笹原です。この道の右手は権現岳から流れ出す古杣川の深い谷になっていて、その谷をはさんで甲斐小泉から権現岳へ至る長い尾根が続いています。
 歩き始めは落ち葉のフカフカのクッションがとても心地よかったのですが、間もなく少し急な登りの道になり、すぐに息があがってしまう(ハァハァ・・・)。
 でも振り返ると、葉を落としたカラマツや広葉樹の枝の間から南アルプスや韮崎の町並みが望めて、その展望に励まされ、また少し登ります。少し登っては休み、を繰り返すうちに道にはだんだんゴロゴロした大きな岩が増えてきますが、なかなか第一目標の雲海に着きません。両手も使いながらゆっくり気をつけて登ります。
 
グリーンロッジです。 始めはゆるやかな道。 すぐに急登、岩がゴロゴロ。
 やっとのことで雲海にたどりつく
 1035分、コースタイムでは40分とあるところを1時間以上かかって、やっと標高1880mの雲海に着きました。ここでグリーンロッジから西へ2030分行ったところにある展望台から登ってくる道と、合流しています。
 雲海は東側の樹林が途切れていて、権現岳の尾根から茅ヶ岳、富士山、南アルプスの峰々が眺望でき、眼下には権現岳の樹海が広がっています。この樹海はほとんどがカラマツなので、ちょうど最後の黄葉を見ることができました。眼下に広がる一面の黄金色の絨毯を見られただけでもきょう出かけて来た甲斐があったというものです。
雲海からの眺望。雲の上に浮かぶ富士山。

やれやれ、やっと到着・・・ 疲れもみせず・・・?

 お茶を飲んで元気回復!?
 しばらく、お茶を飲んで休憩。歩き始めはすぐに息が上がってしまい、「これでは、押出川までも無理かなあ・・・」と弱気になっていましたが、少し休むと何となく力が湧いてくるようで、「よしっ、もう少し登ってみよう」という気持ちになってきました。
 後で聞くと、周平も病後初めての高い山登りだったので「雲海で別の道を通って戻ろうか」と思っていたのに、私が「さあ、出発しましょう」と言って歩き出したので、内心ちょっとびっくりしたとのこと・・・・。
 実は、10年ほど前に編笠山に登った時、雲海から押手川までの道は「割り合い平坦な道だった」ような、気がしていたのです。歩き始めてすぐに勘違いに気づきましたが・・・。 雲海から上はシラビソやコメツガの原生林が広がっていて、下は大きな岩の登りの道でした。それまでは葉の落ちた明るい樹林の中でしたが、この辺からは常緑樹の鬱蒼とした森の中で薄暗く、足元はゴロゴロした岩に苔が生えていて、滑りやすい。
 シラビソやコメツガの原生林はところどころ鹿が角を磨いたと思われる幹の皮が削られた樹や、冬に食べるものがなくなって樹の皮をはいで食べた跡がいっぱいありました。登山道の端には大きな霜柱が出来ていて、山の上ではもうすっかり冬になっているのを実感しました。
押出川までもかなりあるなぁ・・ もう少しがんばろう・・ 霜柱

 心満たされる静寂の時
 約1時間弱かかって押出川の標識のあるところまでやってきました。普段は細い湧き水が一面に流れているのですが、今の時期には湧水の流れにうすい氷が張っていました。日の光がレースのカーテンのような帯になって樹々の間からもれ差し込んでいます。
 静か! 静か! 静か!!
 時おり囀る小鳥の声の他は風の音だけです。
 押出川の原生林の懐に抱かれた静かな時間を持てただけできょうの山歩きの目的は十二分に達成できました。

 

押出川の標識の前で
 勇気ある?撤退! 
 「いやーッ! きょうは最高です! 奥秩父、富士山、南アルプス、北アルプスまで360度見わたせますよッ!」
 山頂から下ってきた人が話し掛けてくれ、「きょうは山頂までいけそうもないなぁ・・でも行けなくても十分!」と思いつつ、大パノラマを想像して、ちょっと残念な気もします。が、無理をしないのが私たちの山歩きの鉄則! 実は押出川から頂上まではきつく長い登りだったとしっかり10年前の記憶が残っていたのです。今の時間と、きょうの足取りを考えて「勇気ある撤退」を選択!・・・
 押出川から10数分登った登山道の脇で、お弁当タイムにしました。コンビニのおにぎり、残り物のおかず、麦茶のランチでしたが、家に居ればどうということのない食べ物も、山の中ではとびきりの大ご馳走になるから不思議!
 
 ゆるやかな笹の道
 12
30分すぎ、「きょうはここまでで帰ろう」と2人の思いが一致して下山です。押出川から雲海まで約1時間で下り、そこから西側に位置する展望台へ下る道へ入りました。
 1時間弱で展望台に着き、そこから東に曲がってゆるやかに下っていきます。笹原の気持ちのよい道が続いていました
 道の途中には「千畳岩」と標識のある大きな岩がたくさんある個所があり、そこを過ぎるとほどなく観音平にあるグリーンロッジの建物が見えてきました。
 今回は、山頂には届きませんでしたが、次の機会には編笠山の山頂で360度のパノラマを堪能しよう! と心に誓い合う2人でした。


編笠山〜押出川MAP